フォントが企業イメージを変える。選定に潜む心理効果とは?
コンテンツデザイン部 S.T

フォントは単なる文字の「見た目」ではなく、感情や信頼性を左右する視覚的な「非言語のメッセージ」。
ブランドの第一印象は、ビジュアルやカラーリングだけで決まるわけではありません。意外と見落とされがちなのが「フォント(書体)」の役割です。どんなに魅力的なビジュアルやコピーを用意しても、フォントの選び方ひとつで、企業や製品に対する印象は大きく変わります。本コラムでは、フォントが与える印象の違いや選定時の心理効果、そして実際の制作アイテムにおける活用ポイントを紹介します。
1. フォントが持つ「人格」と心理効果
フォントには、個性があります。太さ、角の丸み、文字間のバランス等、これらすべてが視覚的な印象に影響します。たとえば以下のような心理効果が知られています。
■ 明朝体(Serif)
特徴: 縦線が太く、横線が細い。筆で書いたような「うろこ」や「ハネ」がある。
印象: 繊細、上品、信頼、歴史、伝統
活用例: 企業理念ページ、製品の技術解説、信頼性を強調した資料など
心理効果: 「堅実さ」や「長年の実績」を感じさせる明朝体は、金融や医療、教育など、誠実さが重視される分野に適しています。縦書きにすることで日本的なイメージを強調することもできます。

■ ゴシック体(Sans Serif)
特徴: 線の太さが均一。シンプルで現代的。
印象: 力強さ、洗練、モダン、誠実感、分かりやすさ
活用例:会社案内、製品カタログ、 展示会ブースグラフィックなど
心理効果: 太さや文字間の調整によって、ニュートラルな印象から力強さまで幅広く表現でき、洗練された印象や女性的な印象を与えることもできます。また、視認性が高く、情報をしっかり届けたいときに効果的。「スピード感」「実行力」など、行動的な企業イメージにもつながります。

■ 丸ゴシック(Rounded)
特徴: 柔らかく丸みを帯びた書体。
印象: 親しみ、やさしさ、温もり、フレンドリー
活用例: 採用パンフレット、BtoC商材の製品カタログ、サービス案内など
心理効果:親しみやすさや、利用者目線の柔らかさを伝えるのに最適。子供向けの本等に多く使われていますが、教育・生活・福祉系企業のブランディングにも向いています。

■ 筆記体(Script/Calligraphy)
特徴: 手書きのような流れる線が特徴。エレガントなものからカジュアルなものまで幅広い。
印象: 上品、華やかさ 〜 やわらかさ、親しみ
活用例: ブランドロゴ、ウエディングツール、パッケージなど
心理効果: 特徴的な形状を活かして「特別感」や「人間味」を演出したいときに有効。感情に訴える表現や、印象的な導入に適しています。

■ デザイン書体(Display)
特徴: 装飾性が高く、特定のテーマや世界観を持った書体。
印象: インパクト、個性、驚き、遊び心
活用例: ロゴ、イベントタイトル、キャンペーンビジュアルなど
心理効果: フォント自体を主役に使う時やメッセージを記憶に残したいときに有効。「楽しさ」や「独自性」を訴求したい場面にぴったりです。ただし、読みやすさとのバランスには注意が必要。

2. ロゴや会社案内における「文字の印象設計」
ロゴに使用するフォントはブランドの核となるため、実際に企業ロゴの多くは、完全オリジナルか、既存フォントをベースに細かな調整を施したものが多いです。理由は、汎用書体では「その企業ならではの」独自性や信頼性が出しにくいからです。
また、カタログや会社案内においては、タイトル・本文・キャプションなどに複数のフォントを使うことがありますが、バランスが取れていないと“散らかった印象”を与えてしまいます。明朝体とゴシック体の使い分けひとつ取っても、「読みやすさ」と企業の世界観を伝える「ブランドトーン」の両立が求められます。

3. カタログや展示会グラフィックでの実務的な配慮
製品カタログでは、視認性と可読性が重要です。特にスペックや機能一覧など、数値が多く並ぶレイアウトでは、ゴシック体やモダンなサンセリフ体など、数字がクリアに見えるフォントが有効です。一方で、説明文などの長文には、やや柔らかな印象の明朝体を組み合わせることで、読み疲れを軽減できます。
展示会ブースのグラフィックでは「遠くからでも読みやすい」ことが最優先。角のはっきりした太めのフォント(特太ゴシックや、海外ブランド風のサンセリフ体など)が使われることが多いですが、業種や来場者層に合わせて、親しみ重視の丸ゴだったり、色気を感じる明朝体を選ぶこともあります。

4. Web・映像における可変性とユーザー体験
Webや映像では、フォントは「動き」とともに見られます。読みやすさはもちろん、ユーザーの閲覧環境(スマホ・PC・タブレット)でも視認性を損なわないフォント設計が必要です。ここでは「画面の中での読み心地」がブランドの印象に大きく影響します。
Webでは、さまざまなデバイスでの閲覧に対応するため、OSの標準フォントやGoogle Fonts/Adobe Fontsなどの汎用性の高いフォントを使うことが多いですが、安易に選ぶと「他社と似てしまう」「ブランドイメージが統一されない」といったリスクもあります。トンマナ(トーン&マナー)の観点で、使用フォントを2〜3種類に絞るのが定石です。
映像では、文字が動きの中で表示されるため、短時間で読み取れる視認性の高いフォントが求められます。ゴシック体(Sans Serif)は線の太さが均一で装飾が少なく、動きとの調和が取りやすいことから多く使用されています。

おわりに:フォントは「言葉以上に語る」
どれだけ洗練されたビジュアルでも、フォントの選び方ひとつで全体の印象は大きく変わります。それは、文字が単なる「情報」ではなく、「視覚的なコミュニケーション手段」だからです。広報やマーケティング担当者が制作会社に発注する際、以下の観点を意識して事前のブリーフィングで明確に共有できると、仕上がりの品質と納得感が格段に高まります。
- 企業のイメージと合致しているか
- 読ませる媒体に最適か
- ターゲット層の好みに合っているか
- 表示に支障が出ないか(Web)
フォント選びの小さな工夫が、大きなブランド価値の差となって表れます。弊社の実績紹介では、フォント選びからこだわった多数の事例をご紹介しています。詳しくは【実績】をご覧ください。